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帰る場所には、碁盤があった

母が伝えたかったこと


居間に広げられた碁盤。
白と黒の碁石が少しだけ並んでいるけれど、ボクはユニフォーム姿のまま外へ飛び出そうとしていた。 サッカーの試合があるのだ。
母は微笑みながら、ソファに腰かけていた。
「試合、頑張っておいで。帰ってきたら、また囲碁の続きしようね」
「うん、わかった!」
当時は「どうして母はこんな退屈そうな遊びに夢中なんだろう」と少し不思議だった。
でも帰ってくると、母は疲れているはずなのに、まだ碁盤をそのままにして待っていた。
「サッカー、どうだった?じゃあここに打ってみようか。
相手の気持ちを考えながら、一手を選ぶんだよ」
母の優しい声に導かれ、一手、また一手……。
そのたびに母は目を細めて嬉しそうに頷く。
今思えば、それは「相手のことを思いやる力」「先を読む力」を自然にボクに伝えようとしていたのだ。