病院の廊下の片隅で、ボクはペンを走らせる。
書きかけの手紙の冒頭に、あの頃の感謝を記す。
「お母さん、22年間、本当にありがとう。
夜勤でクタクタだったのに、いつだって笑顔で「ただいま」って言ってくれたね。
あなたの疲れたはずの手が、僕を抱きしめてくれたあの感触、今でも忘れられないよ。」
便箋を閉じかけたとき、声を潜めた看護師がボクに声をかける。
母の同僚だった小林さんだ。
「あなたが幸子さんの息子さんよね?びっくりしたわ、もうこんなに大きくなって。
お母さん、夜勤のときいつもあなたの話をしてたのよ。
「うちの子は必ず医者になる」って、誇らしそうだったわ」
そう言って微笑む小林さん。
第三者から聞かされる母の言葉に、ボクの胸は熱くなる。
「母さん、そんなことを……?」