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幼い頃の長い夜

夜勤の母を待ち続けた、小さな部屋で


暗い部屋の中、幼いボクは小さなテーブルの上に置かれたマグカップを見つめていた。
母が夜勤に行く前、いつもホットミルクを作ってくれたカップ。
でも今は空っぽのままだ。
冷たい夜の空気がボクの肌を刺し、心細さに耐えきれず、カップをぎゅっと握りしめる。
「ママ……いつ帰ってくるの?」
時計も読めない幼いボクは、ただ玄関の音を待つしかなかった。
そんな長い夜が終わるのは、いつも――
カチャリ。
玄関の鍵が回る音がした瞬間、部屋が一気にあたたかくなる。
「ただいま、待たせてごめんね」
看護師の制服のまま、母は息を切らせて飛び込んでくる。
汗ばんだ髪と、消毒液のにおい。
それでも笑顔で、まずはボクの頭をそっと撫でてくれた。
「まだ起きてたの?ああ、ミルク飲みたかったかな」
冷蔵庫から牛乳を取り出し、小さな鍋で温め始める母。
湯気とともに広がる甘い香りが、ボクの不安を溶かしていくようだった。
まるで魔法みたいに安心して、涙が少しだけこぼれ落ちる。
母はそんなボクの頭をそっと抱きしめ、
「ごめんね、ひとりで頑張ってくれてありがとう。
大好きだよ」
そう言ってくれたんだ。