夜勤を終えた看護師たちが、ぐったりした足取りでナースステーションへ向かう。
朝の四時を過ぎたばかり。
薄暗い蛍光灯の光が、病院特有の消毒液の匂いと相まって、どこか非現実的な空気を漂わせていた。
そんな廊下の片隅で、22歳の医学部生――「ボク」は足を止め、窓ガラスに映った自分の白衣姿を見つめている。
「母さんも、ここを何度も通ったんだよな……」
ポケットに手を入れると、未完成の手紙が指先に触れた。
便箋の端には、小さく波打つシワとインクのにじみがある。
思いがあふれすぎて、上手く言葉がまとまらない。
――それでも、書かずにはいられない理由があった。