わ碁ころ幼稚園ロゴ
© 囲碁教育普及協会

囲碁がADHD児の認知機能と脳活動に与える影響

この研究は、囲碁がADHDの子供たちの認知機能と脳活動を改善する効果を調べたものです。
結果として、囲碁が不注意症状の改善や認知機能の向上に有効であることが示されました。


Se Hee Kim, Doug Hyun Han, Young Sik Lee, Bung-Nyun Kim, Jae Hoon Cheong, Sang Ho Han

はじめに

注意欠陥多動性障害(ADHD)は、不注意、多動性、衝動性などの症状を特徴とする神経発達障害であり、学習や社会的スキルにも大きく影響を与えます。 従来は薬物療法に頼るケースが多かったものの、新たな治療アプローチの開発が求められています。 本研究は、囲碁(Baduk)がADHDの子供たちの認知機能や脳活動に与える効果を検証し、特に不注意症状の改善に焦点を当てました。 囲碁が要求する高い戦略思考や集中力は、ADHDの特性改善に寄与し得ると考えられています。

研究方法

対象者と実施内容

対象となったのは薬物療法を受けていないADHD児17名と、年齢・性別をマッチさせた健常児17名の計34名です。
彼らは16週間にわたり、1日2時間、週5日のペースで囲碁をプレイしました。
指導者のもとで行われる囲碁セッションを通じて、参加者は高い集中力や論理的思考を要求される環境に身を置くことになります。

評価項目

DupaulのADHDスケール(ARS):ADHD症状の重症度を測定
児童うつ病Inventory(CDI):気分状態の評価
桁スパンテスト(Digit Span Test):作業記憶の評価
Children’s Color Trails Test(CCTT) 認知処理速度の評価
8チャンネルQEEG(脳波)計測:前頭前皮質のθ/β比など、脳活動の変化を分析

研究結果

ADHD症状の改善

DupaulのADHDスケールでは、ADHD児の「全体スコア」と「不注意スコア」において、有意な改善が確認されました(p < 0.01)。
一方、多動性に関しては統計的に有意な差は見られず、囲碁による改善は主に不注意傾向の軽減に寄여したと考えられます。

認知機能と脳活動

桁スパンテストでは、ADHD児・健常児ともに作業記憶スコアが向上し、CCTT-2でも情報処理速度が改善しました。
脳波(QEEG)では、前頭前皮質のθ/β比に変化が見られ、ADHD児の前頭前野の覚醒状態が向上したことを示唆しています。
これらの結果から、囲碁は前頭前野の機能を活性化させ、不注意症状の軽減につながっている可能性があります。

考察

囲碁は高度な戦略思考や集中力を要するため、実行機能や注意制御を鍛える効果が期待されます。 本研究では、実際に不注意症状や作業記憶の向上が確認され、脳波解析からも前頭前野の活性化が示唆されました。 しかし、多動性改善には統計的有意差が認められず、今後は補完的な治療法との併用や、さらなる長期的研究が必要と考えられます。

結論

囲碁はADHDの子供たちに対して、不注意の改善や認知機能の向上に効果をもたらす可能性が示されました。 前頭前野の覚醒度を高め、作業記憶や処理速度を促進するメカニズムがうかがえます。 今後は多動性への影響や長期的なフォローアップを含め、さらなる研究と臨床応用の可能性が期待されます。

今後の課題と提言

本研究結果を踏まえ、囲碁を含む非薬物的介入の有効性と限界を見極めるために、以下の点が重要と考えられます。

  1. 多動性や衝動性への効果検証 多動性症状に対する囲碁のアプローチを補完する治療法との併用
  2. 長期的フォローアップ研究 効果の持続性や再発予防の観点からの追跡調査
  3. 他のゲーム・活動との比較研究 囲碁の特性と他の知育プログラムの相違点を解明