西川ひろ子
安田女子大学 教育学部 准教授
研究テーマ
本研究は、幼児の数量感覚(数、量、広さの認識)を促進するための 実証的な研究です。 囲碁という伝統的な遊びを教材として活用し、幼児が数や量への興味を 自然に育めることを目指します。 特に、地域との連携を通じ、幼児が楽しみながら数量感覚を身につける 環境づくりを検討しています。
研究目的
幼児期の数量感覚の発達は、数や量の理解を支える基礎となる 重要な時期です。 本研究では、囲碁を通じて幼児が楽しみながら数量感覚を育む 指導法を探究します。 具体的な目標として、次の3点を掲げました。
- 囲碁遊びを通じた数量感覚育成の教材開発
- 地域連携による教育環境づくり
- 年齢別における数・量の発達特徴の観察と評価
研究方法
囲碁教材の開発
2歳児から5歳児が興味を持てるよう、囲碁のルールを大幅に簡略化した遊びを作成しました。
「囲む」「取る」といった基礎的な操作をわかりやすくし、碁石を数えたり、多い・少ない、広い・狭いといった概念を直感的に学べるよう工夫しました。
また、石の扱い方や対局時の礼儀など、礼節や社会性も同時に学べるようデザインしています。
年齢別指導プログラム
幼児の発達段階を考慮し、段階的に狙いを設定しました。
2歳児:多い・少ない、長い・短いを感覚的に理解
3歳児:点から面へ拡張する遊び(形作りなど)
4歳児:物を数えたり3つに分けたりする活動
5歳児:簡易ルールを活用して陣地を囲む遊びを体験
保育環境の整備
保育室を整理整頓し、数や量を意識しやすい環境を整えました。
片付けの際に数を数える習慣を取り入れたり、数や量を視覚化する掲示物を用意するなど、日常の中で自然に数量感覚を養う工夫をしています。
地域連携
地域の囲碁記念館や囲碁愛好家との連携を実施し、幼児が遊びの延長として地域文化を体験できる場を設定しました。
中学生や保護者を巻き込み、囲碁対局の見学や実際の対戦を行うことで、子どもたちの学びを地域全体で支えました。
観察と評価
保育者が子どもの行動を観察し、アンケート調査や活動記録を通して数量感覚の発達を評価しました。
また、礼儀や協調性などの社会的スキルの成長に関する視点も加え、総合的に分析しました。
結果
実践の結果、幼児たちは年齢に応じて数・量・広さの認識を自然に深めました。
- 2歳児は多い・少ない、長い・短いといった基礎概念を碁石を使った遊びで楽しみながら学習。
- 3歳児は囲碁盤を使った形づくりで面積や形状への関心を高めました。
- 4歳児は物を数えて分類する活動で数の概念が向上。
- 5歳児は簡易ルールを用いた対局で、広さや陣地の概念を掴むとともに、友達と協力し合う力も育まれました。
さらに、礼儀作法や相手への敬意、社会性の発達といった 効果も確認されました。
考察
囲碁は視覚的かつ数や量に深く関わるため、幼児が自然に数量感覚を身につける教材として適していると 考えられます。 また、対局におけるマナーや相手を思いやる行為が 幼児の社会性発達をサポートすることが示唆されました。地域連携により、子どもたちが伝統文化に触れながら学習意欲を高める仕組みも有効であることが確認され、多様な世代や機関との協力が重要だと考えられます。
結論
本研究を通じて、囲碁という遊びが幼児の数量感覚、とりわけ数・量・広さの認識を促進するだけでなく、 礼儀や協力といった社会的スキルも育むことがわかりました。今後は、保育所や幼稚園など教育現場への本格的な導入や、地域全体での取り組みを拡充することで 幼児教育の新たな可能性を広げられると期待されます。囲碁を取り入れた保育プログラムのさらなる発展と、地域連携の深化による幼児教育の質的向上が望まれます。