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本研究は、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授を中心に、日本棋院の協力を得て実施され、2007年7月に報告されたものです。主な目的は、囲碁が子どもの認知機能に与える影響を検証することで、特に思考力、短期記憶力、総合的な作業力といった観点から、囲碁学習の教育的価値を確かめることにありました。研究は、囲碁未経験の小学生(低学年が中心)を対象とし、2006年1月から2007年4月までの期間に実施され、延べ4回の実証実験によって有効データが130名分収集されました。
参加した小学生たちは、3か月間にわたり、週1回1時間の囲碁入門講座を受講しました。講師は日本棋院所属の専門家が担当し、子どもたちは9路盤での対局が可能なレベルに達するまで学習しました。効果測定のため、講座の開始時と3か月後の終了時に認知機能テストを実施し、囲碁学習前後での違いを調べました。
トポロジー検査により、論理的思考や問題解決能力を評価しました。囲碁で必要とされる戦略的判断がどの程度養われるかを確認します。
即時再生検査を用いて、情報を瞬時に覚え、思い出す力を測定しました。碁盤や石の配置を記憶する力が向上するかどうかが焦点となります。
Digit-symbol検査を用いて、複数の作業を同時に処理する能力(ワーキングメモリや処理速度)を評価。囲碁では、配置や相手の意図を同時に考える力が問われるため、その効果が注目されました。
3つの認知機能すべての検査で、囲碁講座を受講した子どもたちは受講前よりも成績が有意に向上しました。学年別の分析によると、以下のような特徴が見られました。
思考力、短期記憶力、総合的作業力の全項目で有意な向上。
思考力と総合的作業力で有意な向上が確認。
全検査項目で高度に有意な伸びを示す。
短期記憶力と総合的作業力での向上が顕著。
研究チームは、これらの結果が囲碁の学習を通じて前頭前野を含む脳機能が活性化したことに起因すると考察しています。
本研究は、囲碁の学習が子どもの認知機能を向上させることを科学的に示しました。特に、論理的思考・短期記憶・作業力といった多方面にわたってポジティブな影響が確認され、囲碁が単なる娯楽を超えた教育的価値を持つことを裏づけています。川島教授は、この効果の背景として囲碁の複雑な情報処理が前頭前野の活性化を促していると述べています。囲碁は高齢者の認知症予防効果でも注目されており、子どもから高齢者まで幅広い世代において脳活性化の可能性を秘めているといえます。
この研究成果により、囲碁は子どもの学習ツールとして有効であるだけでなく、教育現場への普及にも大きな意義を持つと期待されます。特に、3点の方向性が示唆されます。
今後、これらの課題をクリアしていくことで、囲碁を取り入れた教育の可能性はますます広がると考えられます。
囲碁はルールが比較的シンプルながら、奥深い戦略が求められる点で楽しさと知的刺激を同時に提供してくれるゲームです。本研究が示すように、子どもたちが楽しみながら認知機能を育む可能性は非常に大きく、教育上の意義も明確といえます。今後、さらに多くの現場や研究者が囲碁の活用に注目し、子どもたちの思考力や記憶力など、脳の多面的な発達を支援するアプローチとして広がることが期待されます。